
高加水パンまとめ
パン・デ・クリスタル/PAN DE CRISTAL というパンを知った時、なんて素敵な名前のパンなのだろうと思いました。
そして食べてびっくり!!
これまでに食べたことのない、ご馳走パンでした。
正に、高加水パンの珠玉の逸品。

パンとビールをこよなく愛する、love it! 編集部のアイです。
多くの方に絶品パン・デ・クリスタルを紹介したい…と心から思いました。
でもね、国内のパン屋さんでは売ってないみたい。
・・・食べてみたくないですか?
今回はパン・デ・クリスタルを作るために知っておきたい、高加水パンを作る時のポイントも紹介します。
パン・デ・クリスタル / PAN DE CRISTAL とは
冒頭でパン・デ・クリスタルについて、かなりハードルを上げてしまいました。
でも大丈夫!
絶対に期待を裏切らないから。

発祥 | 2010年頃に、 スペインカタルーニャ地方バルセロナのパン職人により生まれた |
加水率 | 90〜106%くらい |
材料 | 粉、酵母、水、塩 |
クラストの特徴 | 薄く、パリパリ |
クラムの特徴 | 乳白色で半透明、大きく不規則な気泡を持つ、しっとりと柔らか |
たった4つの材料なのに、ご馳走になるパン!
クラストは薄く、ポテトチップスのようにパリッとしています。
クラムはクリスタル…という名の如く、半透明で艶やか。
オリーブオイルと岩塩や海塩で食べたら、その美味しさに止まらなくなるくらい。
パン・デ・クリスタルに出会ってから、私は菓子パンやクロワッサンなど食べるコトが減りました。
だって極上に美味しいパンを知ってしまったので、他に手が伸びないのです。
加水率[1]が100%もあるため、パンの大きさに対して小麦粉の使用量が少なくダイエット向きとも言えます。
この記事で紹介するレシピは、加水率100%。
こんなにも水分が多いパン生地は、捏ねるコトができません。
捏ねないで、時間をかけて伸ばしてたたむを繰り返し、グルテンを繋げて生地を作っていきます。
難しいことはないのだけど、あまりにもゆるい生地の扱いに、初めは戸惑うかもしれませんね。
高加水パンとは

高加水パンとは、通常のパンより、水分量が多いパンのこと
水の分量を加水率で表しますが、その概念やパンのレシピを計算するために必要なのがベーカーズパーセントです。
ベーカーズパーセント

- ベーカーズパーセントとは
-
粉類の総重量に対して、他の材料の配合率を表したもの
内割と外割があり、一般的には内割が使われている
- 粉類とは、強力粉・準強力粉・薄力粉などの小麦粉で、全粒粉・ライ麦粉・そば粉など小麦粉以外の粉も含む
- 砂糖やスキムミルクは含まない
- ココアパウダーや抹茶パウダーが含まれているレシピもある
ざっくり言うと、外割は発酵種を使う時の考え方なので、ドライイーストであれば内割だけ覚えておけばOKです。
- ベーカーズパーセントの内割とは
-
発酵種の粉量と水分量を、全体のベイカーズパーセントに含めて考える
- ベーカーズパーセント外割とは
-
発酵種の粉量と水分量は、全体のベイカーズパーセントに含めない
次は計算方法ですが、内割で計算しています。
理解するには、計算してみるのが一番早いかも!
この表は、内割のベーカーズパーセントの計算です↓↓↓
材料 | 必要量 | ベーカーズ% | 計算式 |
強力粉 | 130g | 100% | 130÷130×100=100% |
水 | 130g | 100% | 130÷130×100=100% |
ドライイースト | 0.3g | 0.2% | 0.3÷130×100=0.2% |
塩 | 2.6g | 2% | 2.6÷130×100=2% |
上表のベーカーズパーセント欄、水は100%です。
これが "加水率100%" と言うことです。
いろんなパンの加水率

パンは種類によって、加水率が変わり、整形のしやすさや焼き上がりも変わります。
一般的な加水率は、60〜70%くらいです。
- 加水率60%未満だと、目が詰まったかみごたえのある生地になる
- 加水率65%前後は、生地はきめ細かくふんわりと焼きあがる
- 加水率70%以上は、もちもち感が出やすく大きな気泡もできる様になる
- 加水率60%未満
ベーグル、プレッチェルなど - 加水率65%前後
食パンや菓子パン - 加水率70~80%(高加水の分類に入っていく)
バゲットやカンパーニュなどのハードパン - 加水率80%〜(高加水パンとはこのくらいから)
リュスティックやカンパーニュ、チャバタ - 加水率90%〜
パン・デ・クリスタルやロデヴ、チャバタ
↑↑↑を見ると、パン・デ・クリスタルが、超高加水なコトが解りますね。
日本での高加水パンのパイオニア・・・
日本での高加水パンの先駆けは、世田谷区にあるブーランジェリー の"シニフィアン・シニフィエ"の、志賀勝栄シェフです。
低温長時間発酵のパイオニアでもあり、高い技術と知識、発想力でパン業界をリードされています。
そうして広まりつつある高加水パンですが、扱っているパン屋さんはまだ極少です。
それでも影響を受けているシェフは多いので、これらか増えていくことを期待しています。
志賀シェフのおススメ著書はこちら。
高加水パンのデメリット・メリット

デメリット
- 生地の扱いが難しく、いろんな形に成形できない
- たくさん作るのが難しい
- カビが生えやすい
パン生地が緩いので、扱いが難しいということはありますが、グルテンが形成されてくるとまとまってくるので、数回作れば慣れますよ。
メリット
- クラムが柔らかくモチモチで、不規則で大きな気泡が開き、見た目も美しい
- 時間をかけて発酵させるので、香りや旨味が増しパンが美味しくなる
- 老化が遅い
- 捏ねなくていい
高加水パンの美味しさは、デメリットを全部消してしまうほどの衝撃があると思います。
小麦粉の話
小麦粉の話を詳しく書き始めると、ながーくなってしまう。
ここでは高加水パンを作るために、知っておきたいことだけをさっくりと書きますね。
薄力粉・中力粉・準強力粉・強力粉・最強力粉

日本での一般的な小麦粉の分類は、タンパク質含有量と質によって分類されます。
タンパク質量% | グルテンの質 | 主な用途 | ||
強力粉 | 最強力粉 | 13.5〜 | 超強い | 食パン、高加水パン、湯種を使うパン |
強力粉 | 10.3~13.5 | 強い | パン全般 | |
準強力粉 | 10.5~13.0 | やや強い | バゲッドなどのハードパン | |
中力粉 | 8.5~10.5 | やや弱い | うどん、お好み焼き、たこ焼き | |
薄力粉 | 6.5~10.5 | 弱い | 焼き菓子全般、天ぷら |
タンパク質含有量が少なくても、グルテンが強めだったり、その逆だったり、小麦粉によって性質が違うので、重なるところがあります。
スーパーで見かける、カメリヤなどはパン全般に使える小麦粉です。
パン・デ・クリスタルなどの高加水パンを作りやすいのは、最強力粉です。
とはいえ、グルテンをしっかり作れば、12%程度のタンパク含有量の強力粉でも作れます。
なぜ捏ねなくてもパンができるの?
答えは、水と小麦粉が出会うと、時間を置くだけである程度のグルテンができるから。
パン生地を捏ねる目的は、主に2つあります。
- グルテンの強化
- 短時間でグルテンを強化するため
なので時間があるときやパンの種類によっては、こねずとも美味しいパンができるんです。
捏ねないパンの代表格に、高加水のパンがあげられます。
バゲットなどのハード系のパンは、一般的にあまりこねません。

…とは言え、粉と水などを混ぜた後、全く生地を触らないということはなく、
ストレッチ&ホールドなどで、グルテンを強化します。
なら、なんで捏ねるの?と、思いましたか?
それは後述しますね!
水と小麦が水和すると、グルテンが形成される
捏ねなくてもグルテンができる理由を、もう少し詳しく書くと・・・
- 水和とは
-
小麦粉が芯まで水分を吸収して、タンパク質と水とがしっかり結びつくこと
小麦粉のタンパク質には、「グルテニン」「グリアジン」と言う成分が含まれています。
水和し水を吸収することで、パンの骨格となるグルテンが形成されます。
- グルテニン:粘着力が強く糸状に伸びる性質「弾性」
- グリアジン:弾性の強い固まり「伸展性」
さらに物理的な刺激を与えることによって、たんぱく質が絡み合い、網目状構造のグルテンは強化されます。
オーバーナイト
一晩冷蔵庫で、一次発酵または2時発酵させてから、次の日に焼き上げる製法のことです。
低温長時間発酵とも言います。

デメリット
- 作業時間そのものは短いが、生地作りに時間がかかる
- 冷蔵庫内での場所を取る
- 過発酵に気をつける必要がある
メリット
- 手をかけずグルテン生成が促進する
- 作業時間を2〜4日に分割できる
- 時間をかけ発酵させるので、イーストを減らすことができるので、イースト臭が少ない
- 常温と低音の2つの温度帯を行き来するので、発酵風味成分が増す
- 小麦粉がしっかり給水できるので、保湿性向上するので老化が遅れる
オーバーナイトでのパン作りは、上手く使えばデメリットはないとも言える、画期的な方法です。
時間をかけるだけで、奥深い熟成した旨味のあるパンになるっていうことも魅力ですね。
パンチ ≒ ストレッチ&フォールド

パン作りのレシピを見ていると、パンチと言ったりストレッチ&フォールドと言ったり、同じなのか違うのか…どう判断すればいいのか、ということがあります。
私もパン作りを始めた頃は、???となっていました。
(そして〇〇フォールドという言葉は、複数あります)
結論として目的は、ほぼほぼ同じ。
世界の地域の違い、言語の違い、製法の違いなどで使い分けられています。
- パンチ
-
生地をこねている中で、発酵の途中で生地をたたみ直す作業のこと
パンチすることで、ボリュームアップする
気泡を細かく均一にする効果がある
- ストレッチ&フォールド
-
一般的にサワードウブレッドや、高加水パンを作るときに使われる言葉
オートリーズさせた後、捏ねる代わりに行われる
釜伸びしやすく、大きな気泡ができやすくなる
パンチは生地を捏ね上げ後、一次発酵中に行われる。
一方ストレッチ&ホールドは、高加水パンやサワードウブレッドの生地、グルテンの強化のために行われる。
今回のパン・デ・クリスタルには、ストレッチ&フォールドと、コイルフォールドを行います。
コイルフォールドとは
高加水パンの生地の発酵段階に、効率的にグルテンを生成し強化するために使用される、折りたたみ技術です。
- コイル:らせん状に巻いた物
- フォールド:抱える、折り畳む、折り重ねる、巻き付ける
ということで、生地をコイルの様に巻いて折りたたみます。
高加水の生地は、通常水分のパン生地のようこねてもグルテンはつながりません。
生地を休ませながら、刺激を与えて繋いでいきます。
- 生地を休ませる
- 生地を引っ張る距離が長い
- 同じ方向へ生地を伸ばしてたたむ
この3つを組み合わせると効果的に、グルテンが形成されます。
上下左右の4辺から折りたたむのは、グルテンの編み目構造が複雑になり、骨格が強靭になるからです。
至高の高加水パン、加水率100%の "パン・デ・クリスタル"作ろう
酒粕酵母で作りましたが、ドライイーストでもおいしく作れます
材料
* 容量1.2L〜 四角いタッパーかガラス容器を用意してください。
(必要量/ベーカーズ%)
- 酒粕酵母液 45g / 35%
- 水 85g / 65%
- 強力粉or最強力粉 130g / 100% (タンパク質含有量13%以上)
- ドライイースト0.3g / 0.2%
- 海塩 2.6g / 2%
*容器に塗るオリーブオイルを大さじ1

* 酒粕酵母ではなく、ドライイーストで作るなら、下記のレシピでお作りください。
(必要量/ベーカーズ%)
- 水 130g / 100%
- 強力粉or最強力粉 130g / 100% (タンパク質含有量13%以上)
- ドライイースト0.7g / 0.5%
- 海塩 2.6g / 2%
*容器に塗るオリーブオイルを大さじ1
強力粉は、タンパク質含有量が13%以上が失敗しにくいです。
でもスーパーで買えるカメリヤなどでも作れるといいなぁと思い、試行錯誤し出来上がったレシピ動画も、アップしています。
作り方
Step1 | ![]() | 全ての材料を混ぜる 1時間休ませる |
Step2 | ![]() | ストレッチ&ホールドを1セット |
Step3 | ![]() | 四角い容器にオリーブオイルを塗る 生地を移す |
Step4 | ![]() | 30分休ませ、コイルフォールド (30分毎に4回) |
Step5 | ![]() | 約2倍半くらいまで発酵をとる |
Step6 | ![]() | パンマットに生地を出し、縦横三つ折り ひとまわりふっくらするまで待つ |
Step7 | ![]() | 分割 200℃で焼成 (スチーム有り)40分〜 表面が焦げすぎてしまいそうなら、アルミホイルを被せる |
完成!



パン・デ・クリスタルは、軽くあぶってオリーブオイルと塩で食べると、まさにご馳走パンになります。
そこにトマトスライスをのせて食べると、さらに美味しさが増しますよ^^
オススメのスクエア保存容器
上段のレシピの量であれば、この容器で丁度いいです。
上段のレシピの2倍量で作るなら、このくらいの容器が良いと思います。
オススメの本
編集後記
これまでに何度作ったか分からないほどの、加水100%のパン・デ・クリスタル。
粉を変えたり、工程を変えたり、酵母を変えたり・・・
もちろん失敗もありました。
その度に原因を調べたり、たった一つのこのパンのおかげで、パン作りの知識がとても増えた様に思います。
高加水パンを知ると、パンの世界が一気に広がります。
だからこそ、この美味しさをお伝えしたくて、動画を撮り記事にしました。
ぜひ試してみてくださいませ。