
「このリュスティック…めっちゃ美味しい。食感も味も初めて…何が入ってるの?」
私が焼いたパンを、友人にプレゼントしたときにもらった感想です。
種明かしをすれば、酒粕酵母液をストレート法で使い、こねることもせず焼いただけなんです。
しかも材料はたったの3つ。
- 粉
- 酒粕酵母液
- 海塩

おはようございます。自家製酵母作りを始めてから、よりパンとビールが好きになったlove it! 編集部のアイです。
酒粕から起こした酵母を使うと、とっても美味しいパンを焼くことができます。
しかも果物などで起こす自家製天然酵母より、ずっとカンタンです。
もっというと寒い時期でも発酵力が強く、サワードウやルヴァン種ほど、いろいろ気を使わなくても良いというメリットがあります。
今回は、 "酒粕酵母液の作り方〜使い方・継ぎ方"まで、紹介しますね。
酒粕酵母をパン作りに使う訳
考え方は様々ですが、フルーツやハーブ、ビールや酒粕などで天然酵母を起こし使う理由は、イーストでは味わえない美味しさを得るためです。
酒粕酵母にはメリットがたくさん!
さて酒粕で酵母液を作る理由はいくつかありますが、1番の理由は扱いやすいのに、とにかく美味しいパンが焼けるから!です。
デメリット
- 焼き上がったパンは、チーズのような優しい香味があるが、これが苦手な人もいるかも
メリット
- カンタンに培養でき、扱いやすい
- 酒粕由来の、風味・香味・旨味がよく、リーンなパンでもとにかく美味しくなる
- 寒い時期でも、室温で発酵してパンを膨らませる
- ストレート法でも発酵力が安定している
- リッチなパンでもしっかり発酵する
市販のドライイースト(パン酵母)は、
サッカロマイセス・セレビシエ (Saccharomyces cerevisiae) です。
日本酒を作り出す酵母も、サッカロマイセス・セレビシエの1種なんです。
ビール酵母も、サッカロマイセス・セレビシエの1種。

サッカロマイセス・セレビシエは、
「糖を分解してアルコール(エタノール)と二酸化炭素を生成する」
アルコール発酵をする出芽酵母です。
だからパン作りにも使うことができる!
日本酒は寒い地域で作られるものが多く、美味しいと言われます。
つまり…酒粕の酵母は、寒さに強い酵母なのではないでしょうか。

実際、真冬に酒粕酵母でパンを仕込むと、室温で発酵し膨らんでくれます。
パン生地に酸味が出ることもありません。
真冬にサワードウは使うには、温度管理が難しいですが、そういった煩わしさがないんです。
日本酒作りの恩恵を受け継ぐ酒粕酵母ならではの、メリットがたくさんあるんですね。
酒粕酵母を使うなら、ストレート法がオススメ
自家製酵母をパンの仕込みに使うには、ストレート法[1]と発酵種法[2]があります。

サワードウやルヴァンなどは、そもそも発酵種なので、ストレート法で使うことはありません。
ストレート法で使えるのは、フルーツやハーブなど、素材に水と糖分だけ加えて作る酵母です。
どちらにも一長一短ありますが、個人的にはストレート法をオススメします。
なぜならストレート法だと、酒粕酵母由来の香味・風味を感じられる美味なパンになるからです。
酒粕酵母液でパンを仕込むと、深い旨味がどことなくチーズのよう。
芳醇でクラムはしっとりふわっとモチモチになります。
一度食べたら癖になる、極上のパンが出来上がります。
*酒粕酵母液は、こさずにそのまま使ってください。
溶けた酒粕は、パン生地になじみ、焼き上がった時はわからなくなります。


酒種酵母と酒粕酵母
酒粕酵母も、酒種の一種です。
酒種と酒粕酵母は、作る工程が違います。

酒種酵母は、米・炊いたご飯・米麹と水から作られるので、空中浮遊している酵母を捕まえることで完成します。
酒種を作るには、炊いたご飯を用意したり、時間も多くかかります。

一方、酒粕は日本酒の搾りかすなので、すでに酵母がプラスされている状態。
なので酒粕酵母を育てるのは、とてもカンタンで失敗もしづらい自家製酵母の一つなんです。

酒種のパンといえば、有名なのが
木村屋総本舗のあんぱん。
酒種とは酒種酵母のことで、米食文化である日本独特の酵母です。
明治7年に、米と麹と水から酒饅頭をヒントに作られたそう。
洋のパンに和のあんが融合。
日本人の嗜好に合うよう考えられた、和洋折衷の画期的な酒種パンは、今も受け継がれています。
なんとカンタン!酒粕酵母の作り方(起こし方)
- 500mlくらいのガラス瓶
- 軽量スプーン
- キッチンスケール
- 酒粕 70g
- 湯冷し 280g
- 砂糖 (蜂蜜) 5gくらい
酒粕は新鮮なものの方が、酵母が元気です。
もし手に入るなら、酒蔵で購入すると良いですね。
この記事を書く前、動画撮影のために購入した酒粕は、スーパーで買いました。
私はいつも、信州の「真澄」の酒粕を使っています。
けれど今回の酒粕は、あまり元気がないように感じます…

ガラス瓶とカトラリーを煮沸消毒し、覚ましておく
湯冷しを作っておく

ガラス瓶に酒粕、水、砂糖を入れる
蓋をして、砂糖が溶けるよう瓶を振る
酒粕は溶け切らなくても、大丈夫です
徐々に溶けていきます
常温においても良いが、できれば22〜28℃くらいのところにおく
ヨーグルトメーカーなどに入れても良い(28℃推奨)

1日1〜2回、蓋を開け新鮮な空気を入れる
酵母液が酸素を取り込めるように、瓶を振る
*今回は、完成まで室温におきます。
失敗しないための3つのポイント
- 温度管理をしっかりする
酒粕酵母は20〜28℃の温度帯を好みます
室温におく場合、温度変化を少なくする - 夏場は、28℃以上に上がらないよう気をつける
酒粕は麹が入っているので、暖かすぎると酵素が活性しすぎてしまうからです - 1日1〜2回蓋を開けて、新鮮な空気を取り込む
酵母は成長するのに酸素が必要です
なので新鮮な空気を入れたら、酸素を酵母液に溶け込むように瓶を振ります
完成の目安
スクラッチで作るときは、3〜6日ほどで完成します。
日数に幅があるのは、酒粕に含まれる酵母の活性度や、気温などの環境が違うからです。
また酒粕酵母は寒さに強いので、冬でもおこせます。
・・・ですがあまり寒い場合は、保温してあげてください。
酵母液完成の目安
蓋を開けるとプシューッと音がして、酵母液が発泡
表面が泡でいっぱいになる
フルーティで甘い香りがする
舐めてみるとピリッと微炭酸を感じる

気泡がプクプクしなくても、横からみて気泡の通り道ができるようになる
完成後2日ほどすると、気泡が落ち着く
参考までに、動画にした酒粕酵母液の日毎の経過
酵母を仕込んだ日は、5月30日です。
酒粕酵母液の継ぎ方
ストレート法で使う方が、酒粕由来の美味しさをパンに残すことができます。
その場合、継ぐたびに酒粕が必要になります。
- 500mlくらいのガラス瓶
(煮沸済み) - 軽量スプーン
- キッチンスケール
- 完成した酒粕酵母液
大さじ1〜
- 酒粕 必要量
- 湯冷し 酒粕の4倍くらい
- 砂糖(蜂蜜 )5gくらい
必要なもののリストに、ガラス瓶と書きましたが、利用中のガラス瓶が汚れていなければ、そのまま継ぎ足しても問題ないです。
夏は腐敗しやすいので、継ぐたびにガラス瓶を変えたほうが衛生的です。

煮沸済みのガラス瓶か、酵母液の残りが入った瓶に、材料を全部入れる
作りたい量の材料を入れてください
酒粕:水=1:4〜5
蓋をして、砂糖が溶けるよう瓶を振る
酒粕は溶け切らなくても、大丈夫です

1日1〜2回、蓋を開け空気を入れ、瓶をふる
完成の目安は、酒粕酵母液を起こした時と同じようになればOKです。
常温で1〜2日ほどで完成します。
冬場は水ではなく、30℃くらいのぬるま湯にしたり、仕込み後、保温してあげてください。
酒粕酵母液を元種(発酵種)にする方法
酒粕酵母液に粉を混ぜて、元種(発酵種)にして使う方法もあります。
元種は一度作ってしまえば、サワードウのようにフィードして継いで行くことができ、半永久的に使用可能です。
ただし継ぐ回数が増えるほど、酒粕の風味は無くなっていきます。
*酒粕の風味を感じるパンを作りたいなら、元種をフィードするとき、水の代わり酒粕酵母液を加えると良いでしょう。

酒粕酵母液を発酵種にする方法は、フルーツ酵母液などの元種と同様です。
3回継いで完成させます。

2〜4時間後、高さが2倍ほどになったら次のステップへ

2〜4時間後、高さが2倍ほどになったら次のステップへ

(合計160gの発酵種ができます)
2〜4時間後、高さが2倍以上になれば完成!
パン作りに使えます。


活性の高い元種なので、リッチなパンにも使えます
完成した元種は、冷蔵庫に保管し、3日ほどで使いましょう。
その後も、同様に継いで行くことができます。
元種(発酵種)作りで知っておきたいポイント
酒粕酵母液と小麦粉を混ぜた後は、25℃以下で管理しましょう。
理由は25℃を超えると、麹の酵素活性が活発になるからです。
詳しくはこちら
完成させた発酵種をすべて使い切らず、少し残して継いで行きます
基本は、発酵種:粉:水=1:1:1 です
たとえば、発酵種20g:粉20g:水20g
作りたいレシピに合わせて、リフレッシュします
* 元種(発酵種)のリフレッシュや継ぎ方は、サワードウと同様です
こちらの記事をご覧ください↓↓↓

酒粕酵母と発酵、培養する温度の関係
酵母は4℃以下で休眠し、55℃を超えると死滅します。
酵母の活動がもっとも活発になる温度は、25~35℃で、ピンポイントで言うと28℃です。
自家製酵母を培養するときも、28℃設定で置いておくと、失敗はほぼなくなります。
酒粕酵母も同様です。
…とは言え、酒粕酵母をパン作りに使うときは、もう少し低い温度が向いていると感じます。
なぜかと言うと、酒粕には麹が含まれているためです。

麹はタンパク質を分解して、ブドウ糖とアミノ酸を作る酵素。
25〜28℃で活性が高くなります。
さらに30℃以上で、タンパク質を分解する酵素が、最も活性化するようになります。
つまりパンの骨格である、グルテン(タンパク質)が壊れてしまうために、パンがだれてしまうんです。
この状態が進むと、グルテン崩壊です。
まだこの事をよく分かってなかった頃、ニ次発酵中のパンがやけに崩れているので、調べてみて解ったことでした。
今は20〜25℃くらいで、発酵をとるようにしています。
オススメ自家製天然酵母の参考図書
編集後記
"酒粕酵母液で美味しくなるパンレシピ" も、紹介したいと思っていました。
ですがトライアル&エラーで知ったこと含め、備忘録のように書いていたら、長くなってしまったので別記事にしますね。
ビールとパンが好き…好きなものはとことん学びたくなってしまう私は、イーストでのパン作りから入り、今ではすっかり天然酵母のパン作りに夢中です。
天然酵母を起こすのは、毎回科学の実験のようで、とても楽しい。
さらに美味なパンが焼けると、"美味しい" も付いてくる。
楽しいと美味しいを、あなたにも伝えたくて、ウキウキしてきます。
酒粕酵母はいろんな天然酵母を作った中で、いちばん簡単で美味しいパンが焼けるように思います。
ぜひチャレンジしてみてくださいませ。